家族信託・成年後見
家族信託とは。成年後見との違い、認知症になる前に知っておくこと
「家族信託」は、親の財産を子などが管理する仕組みとして知られていますが、法律上の用語ではなく、信託法にもとづく「信託」の一つの使い方です。この記事では、仕組みと成年後見との違い、認知症になる前後で何が問題になるかを、法令と公的資料で確認できた範囲でまとめます。個別の判断は専門家に確認してください。
家族信託とは?法律上は「信託」という制度です
結論から書きます。家族信託は、信託法に定められた「信託」を、家族の間で使うものです。「家族信託」「民事信託」という言い方は法令上の用語ではありません。日本司法書士会連合会(日司連)の執務ガイドラインは「民事信託について法令上の定義は存在しない」とし、同ガイドラインでは「信託業法の適用を受けない信託」を指す言葉として使っています。
信託法第2条第1項は、信託を次のように定めています。
「特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすること」(要約のため一部略)
自分の言葉で言い直すと、決めた目的のために、財産の管理や処分を誰かに任せる仕組みです。登場人物は3人です。
| 呼び名 | 信託法での意味 | 家族の例 |
|---|---|---|
| 委託者 | 信託をする人 | 親 |
| 受託者 | 信託財産の管理・処分などをする義務を負う人 | 子 |
| 受益者 | 信託の利益を受ける権利(受益権)を持つ人 | 親(親自身が受益者になることも可能) |
法務省のパンフレット「知って活用 信託制度」は、典型例として「高齢の親が、委託者兼受益者として、受託者となる子との間で信託契約を締結する」場合を挙げています。子は受託者として財産を管理し、預貯金の払戻しや自宅の管理、公租公課の支払いなどを行いながら、受益者である親に生活費などを渡す、という流れです。
なお「家族信託」という名称は、日本弁護士連合会(日弁連)の信託口口座に関するガイドラインによると、一般社団法人家族信託普及協会が商標登録しています。この記事では、一般に通じやすい言葉として使います。
仕組みをたとえ話で。親の生活費を、子が信託財産から管理する場合
これは実際にあった話ではない、説明用の例です。法律上の結論を示すものではなく、あくまで仕組みの理解のための例えです。
たとえば、親が「自分の預金を、介護や生活のために使ってほしい。管理は長男に任せたい」と考えたとします。このとき親が委託者、長男が受託者、親自身が受益者になる信託契約を結ぶ、というのが典型的な形です。財産は受託者に移りますが、受託者のものになるのではなく、受託者自身の財産とは分けて管理されます。信託法第25条第1項などにより、受託者が倒産しても信託財産はその影響を受けない、とされています(法務省パンフレットも同旨)。
ここで大切なのは、受託者は自分のために財産を使えるわけではない、という点です。信託法第8条は、受益者として利益を受ける場合を除き、受託者は信託の利益を享受できないと定めています。受託者には、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務(第29条)や、受益者のために忠実に事務を処理する義務(第30条)、自分の財産と分けて管理する義務(第34条)があります。
家族信託と成年後見の違いは?比べてみます
どちらが良い、という話ではありません。役割が違う制度で、法務省パンフレットも「信託と成年後見制度や遺言などの他の財産管理等の手段は、それぞれ役割や効力の及ぶ範囲が異なっており、併用することもできます」と説明しています。公的資料で確認できた範囲で、次の表にまとめました。
| 項目 | 家族信託 | 法定後見(成年後見) | 任意後見 |
|---|---|---|---|
| 始められる時期 | 委託者に意思能力があるうち(契約の時点) | 判断能力が不十分になってから、家庭裁判所に申し立てる | 判断能力があるうちに契約。効力は監督人の選任から |
| 誰が決めるか | 委託者と受託者の契約。内容は当事者が決める | 家庭裁判所が成年後見人等を選ぶ。権限は基本的に法律で定められる | 本人が任意後見人と権限を契約で決める |
| 家庭裁判所の関与 | 信託法に、裁判所による一般的な監督の規定はない(日弁連ガイドライン)。監督は受益者・信託監督人などが行う仕組み | 成年後見人等は家庭裁判所に報告するなどして監督を受ける | 家庭裁判所が任意後見監督人を選任して監督する(全件で選任) |
| 契約の方式 | 信託法上、公正証書は必須ではない(実務では公正証書が一般的) | 申立て(契約ではない) | 公証人が作成する公正証書が必要 |
| 身のまわりの世話(身上保護) | 信託の受託者には権限がなく、財産管理の制度(日弁連・日司連ガイドライン) | 財産管理のほか、生活・医療・介護などにも目配りする(法務省Q&A) | 契約で定めた範囲で代理できる |
| 本人が結んだ契約の取消し | 記載を確認できていない | 成年後見人等は、一定の範囲で取り消せる | 任意後見人は取り消せない |
表の「記載を確認できていない」の項目は、今回の資料では確かめられなかったという意味で、できないという意味ではありません。
もう一つ、信託では扱えない範囲があります。信託は財産管理の制度なので、入院や施設入所の契約といった身上保護の場面では、日司連のガイドラインは後見制度との併用を検討する必要がある、としています。成年後見制度の詳しい内容は成年後見制度とはに、成年後見を実際に利用した家の話は運営者の体験にあります。
家族信託は認知症になってからでも組める?
結論から書きます。公的資料から言えるのは、「診断名」ではなく、契約をした時点で意思能力があったかが問題になる、というところまでです。何か月以内なら大丈夫、軽度なら組める、といった線引きは、今回確認した公的資料には書かれていませんでした。
民法第3条の2は、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と定めています。信託契約も契約ですから、委託者となる人に意思能力がなければ無効になり得ます。日弁連の民事信託業務に関するガイドラインでは、信託契約を結ぶには、委託者に意思能力と信託を設定する意思があることが「大前提」とされています。
一方で、同じ日弁連のガイドラインは、認知症と診断されていても程度は様々なので、診断だけで信託契約を結べないと判断してはならない、という考え方も示しています。これは弁護士向けの実務の指針であり、法令ではありません。また、診断後にどこまで可能かの具体的な基準を示したものでもありません。
同じガイドラインは、意思能力の確認には医療・介護の記録など、入手できる範囲の客観的な資料が参考になること、委託者が高齢の場合は親族から不当な影響を受けたと疑われて、後で信託の効力が争われる危険があることも指摘しています。
法務省パンフレットも、将来自分の判断能力が衰える事態に備えて、判断能力のある段階で信託する使い方を紹介しています。公的資料から言えるのは、ここまでです。迷っている段階でも、弁護士会や司法書士会などの相談窓口に聞いてみる方法があります。
認知症になったあとは、成年後見や信託はどうなる?
民法第7条は、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人について、家庭裁判所が後見開始の審判をすることができると定めています。後見が始まると、成年被後見人の法律行為は取り消すことができます(日用品の購入など日常生活に関する行為を除く。民法第9条)。
後見が始まったあとに、成年後見人が本人に代わって信託契約を結べるか、家庭裁判所の許可が要るかについては、今回の公的資料では確認できませんでした。そのため、この記事では書きません。個別の事情は、弁護士・司法書士に確認してください。
受託者側にも注意があります。受託者である個人が後見開始または保佐開始の審判を受けると、原則として受託者の任務は終了します(信託法第56条第1項第2号。信託行為に別段の定めがあればそれによる)。受託者が欠けて新しい受託者が就任しない状態が1年間続くと、信託は終了します(第163条第3号)。受託者が先に判断能力を失う場合のことも、契約を考える段階で話し合っておく必要があります。
親が家族信託に同意しないときは?
結論から書きます。信託は、委託者本人の意思表示が前提の制度です。信託契約は委託者と受託者の合意で成立し(信託法第4条第1項)、日司連のガイドラインは「委託者の意思を最も重視すべきであり、受託者の利益に誘導されてはならない」としています。
- 言えること:判断能力のある親が信託を望まない場合に、家族が代わりに信託を実現する方法は、今回確認した公的資料には書かれていません。確認できたのは、委託者の意思がなければ信託契約は成立しない、という構造までです。
- 言えること:日弁連のガイドラインは、受託者候補者が主導して、推定相続人(相続人になる予定の人)の利益を図る契約書が作られる危険に注意を促しています。依頼者はあくまで委託者本人です。
- 言えること:親族の影響を受けた契約だったとして、後に信託の効力が争われる危険があります(日弁連ガイドライン)。
- 言えないこと:説得の仕方、同意を得る手続は、公的資料に書かれていません。
なお、日弁連と日司連のガイドラインは、受託者候補者だけが相談に来た場合でも、委託者本人と面談することを求めています。親の気持ちを置いて話を進めることは、できません。話し合いの進め方に迷うときは、弁護士会や司法書士会の相談を利用する方法があります。
公正証書にしなければならない?必須ではない理由と、勧められる理由
信託法は、信託契約に公正証書を求めていません。日弁連のガイドラインも「信託法上、信託契約は公正証書によらなければならないとされていない」と書き、日司連のガイドラインも、契約書の作成は成立の要件ではないとしています。
そのうえで、実務では公正証書にすることが一般的だと、日弁連・日司連の両ガイドラインが述べています。理由として挙げられているのは、次の点です。
- 公証人が意思能力を確認する(公証人は、無効な行為について公正証書を作成できません。公証人法第26条)
- 紛争の予防になる
- 日付の改ざんを防げる
- 金融機関が信託口口座を開く条件にすることが多い
ここでの「公正証書が勧められる」は、弁護士・司法書士向けの実務指針の話であり、法律上の義務ではありません。契約書の作り方は、公証役場や専門家に確認してください。
不動産を入れる場合の登記と登録免許税は?
不動産を信託財産にする場合、信託の登記が必要です。信託法第14条は、登記・登録が必要な財産は、信託の登記をしなければ、その財産が信託財産に属することを第三者に主張できないと定めています。日弁連のガイドラインは、登記を後回しにすること(登記留保)は、第三者に主張できないだけでなく、分別管理義務の違反にもなる、としています。
登録免許税については、次のとおりです。
- 所有権の信託の登記の税率は、登録免許税法 別表第一で、不動産の価額の1000分の4(0.4%)です。
- 委託者から受託者へ、信託のために財産を移す所有権移転の登記には、登録免許税がかかりません(同法第7条第1項第1号)。
- 国税庁の周知資料には、所有権の信託の登記について0.3%の軽減措置の記載があります。ただし、家族信託の登記にどの条件で適用されるかは、今回の資料では確認できませんでした。
税額の目安は、本則の0.4%を基本に考えてください。軽減措置に当たるかどうかは、登記を依頼する司法書士や法務局に確認してください。なお、課税の基になる不動産の価額は、固定資産課税台帳に価格がある場合は原則その価格です(国税庁タックスアンサー No.7191の注)。
信託を始めると、税の面では、贈与税や所得税の扱いにも注意が必要です。日弁連のガイドラインは、民事信託を利用しても「相続税や贈与税等の資産税や所得税等の所得課税を節税できる余地はない」としています。節税を目的にする制度ではない、と考えておくのが無理のない理解です。
家族信託の費用は?公的資料で確認できた範囲
登録免許税のほかの費用は、公的資料では確認できていません。専門家の報酬、公証人の手数料、証明書代などは、今回の確認では金額を集められなかったため、ここには数字を書きません。
事務所や案件の内容によって費用は変わると考えられます。相談するときは、何にいくらかかるのか、内訳を書面で出してもらい、複数の窓口で見積もりを比べる方法があります。
できないこと・注意点
日弁連と日司連のガイドライン、信託法などで確認できた範囲です。
| 項目 | 確認できたこと |
|---|---|
| 身のまわりの世話 | 信託は財産管理の制度で、身上保護(入院や施設入所の契約など)はできません。後見制度との併用を検討する必要がある、と日司連のガイドラインは述べています。 |
| 債務(借金) | 日弁連のガイドラインは、債務そのものを信託することはできない、とします。受託者が債務を引き受ける条項を置くことで含める方法はある、とも説明しています。 |
| 年金を受け取る権利など | 日司連のガイドラインは、年金受給権のような本人だけの権利は信託できない、とします。 |
| 農地 | 日司連のガイドラインは、受託者が耕作する目的で農地法第3条の許可を得ることはできず、信託できない財産が含まれる場合は後見制度や遺言との併用も検討する、とします。 |
| 預貯金 | 委託者名義のままでは信託になりません。受託者に移して、信託口口座などで管理します。信託口口座の開設は法律上の義務ではなく、応じる金融機関は、日弁連のガイドラインによれば「まだ少数」で、開設条件も異なります。契約書の案を固める前に、金融機関に条件を確認することが望ましい、とされています。 |
| 遺留分 | 遺留分の規定は強行規定で、信託契約でも避けられない、と日弁連のガイドラインは述べています。信託と遺留分の関係は、学説が分かれ、確立した見解はない、とされています。 |
| 受託者になれる人 | 未成年者は受託者になれません(信託法第7条)。営業として信託を引き受けるには免許が必要です(信託業法第3条)。日弁連のガイドラインは、法人や、複数の信託を引き受ける個人は信託業法に抵触する可能性がある、と注意しています。 |
| 受託者の責任 | 帳簿の作成と毎年の報告、書類の保存などの義務があります(信託法第37条)。任務を怠って損失が出れば、受益者は補てんを請求できます(第40条)。 |
| 税金 | 他益信託(受益者が委託者と別の人)では、適正な対価がなければ受益者に贈与税がかかる場合があります(相続税法第9条の2)。信託財産の不動産所得の赤字は、ほかの所得と損益通算できないと日司連のガイドラインは述べています。税務は未解明の点が多いので税理士に相談するよう、日弁連のガイドラインが求めています。 |
日弁連のガイドラインは、民事信託は裁判例が少ないとも書いています。制度の説明どおりに進むと決めつけず、不明な点は専門家に確認してください。
誰に相談すればいい?
- 弁護士会:日弁連の法律相談ページによると、全国の弁護士会の法律相談センターで相談できます。相談時間はおおむね30分、相談料は地域や内容により異なり、5500円前後と案内されています。
- 司法書士:日司連のガイドラインでは、司法書士は民事信託の相談、契約書案の作成、口座開設の支援、登記手続などを行うとされています。司法書士が受託者になることはできません。
- 公証役場:信託契約の公正証書や、任意後見契約の公正証書の相談先です。
- 法テラス:法的トラブルの総合窓口として、サポートダイヤル(0570-078374)があります。ただし、家族信託の設計そのものを支援するかどうかは、確認できていません。
- 税金のこと:税理士に相談してください(日弁連のガイドライン)。
相談先の使い分けに迷う場合は、困ったときの相談先もご覧ください。地域の弁護士会・司法書士会に家族信託の専門窓口があるかどうかは、確認できていません。なお、国民生活センターの相談窓口は、相続や家族関係のトラブルは受け付けていないと案内されています。
よくある質問
Q.家族信託をすれば、成年後見は不要になりますか。
A.信託は財産管理の制度で、身上保護は含まれません。法務省パンフレットは、信託と成年後見は役割が違い、併用もできるとしています。必要かどうかは、個別の事情で専門家に確認してください。
Q.家族信託で相続税は安くなりますか。
A.日弁連のガイドラインは、民事信託で相続税・贈与税・所得税を節税できる余地はない、としています。
Q.受託者は、きょうだいの誰かでなければいけませんか。
A.法令上、未成年者は受託者になれません(信託法第7条)。また、法人や複数の信託を引き受ける個人には信託業法に抵触する可能性がある、と注意されています(日弁連ガイドライン)。誰が適切かは、個別に専門家と確認してください。日弁連のガイドラインは、信じて託せる適切な受託者がいて初めて使える制度である、としています。
Q.預金はそのまま子が引き出せば、信託と同じではないですか。
A.名義が親のままだと、信託として分けて管理されたことになりません。口座の扱いは金融機関ごとに異なるため、金融機関の窓口で確認してください。
Q.家族信託は途中でやめられますか。
A.信託法第164条第1項は、委託者と受益者がいつでも合意により終了できると定めています(別段の定めがあればそれによる)。
このページで分からないこと
- 認知症の程度ごとに、信託契約が有効になる線引き
- 成年後見が始まったあとに、成年後見人が信託契約を結べるか、家庭裁判所の許可が要るか
- 判断能力のある親が同意しないとき、家族が信託を実現する手段
- 0.3%の登録免許税の軽減が、家族信託の登記にどの条件で適用されるか。建物の軽減の有無
- 専門家の報酬、公証人手数料などの費用の相場
- 生命保険契約そのものや、自動車・貸金庫・暗号資産などを信託できるか
- 金融機関ごとの信託口口座の対応状況
日弁連・日司連のガイドラインは法令ではなく、弁護士・司法書士向けの実務の指針です。この記事の内容は、2026年11月3日時点で確認できた範囲で、法改正で変わることがあります。法律・税金・費用の個別の判断は、専門家と、公証役場・税務署などに確認してください。
出典(確認日:2026年11月3日)
- 信託法(e-Gov法令検索)
- 信託業法(e-Gov法令検索)
- 民法(e-Gov法令検索)
- 公証人法(e-Gov法令検索)
- 登録免許税法(e-Gov法令検索)
- 相続税法(e-Gov法令検索)
- 任意後見契約法(e-Gov法令検索)
- 法務省 知って活用 信託制度(パンフレット)
- 法務省 成年後見制度Q&A(Q1-2)
- 法務省 成年後見制度Q&A(Q3-15)
- 日本弁護士連合会 民事信託業務に関するガイドライン
- 日本弁護士連合会 信託口口座開設等に関するガイドライン
- 日本司法書士会連合会 民事信託支援業務の執務ガイドライン
- 国税庁 登録免許税の税率の軽減措置に関するお知らせ
- 国税庁 No.7191 登録免許税の税額表
- 国税庁 No.4427 新たに信託の設定等を行った場合
- 法テラス FAQ
- 日本弁護士連合会 法律相談
- 国民生活センター 相談時のポイント