家族信託・成年後見
認知症の人が起こした事故に備える。自治体の個人賠償責任保険とは
認知症のある高齢者が、外出先で他人にけがをさせたり、物を壊したりしたとき。その賠償に備えて、市区町村が保険契約者になる仕組みを設けている自治体があります。このページでは、地域の違う6つの自治体の公式案内を読み、条件や上限額を比べました。お住まいの自治体の内容は、公式の案内か窓口でご確認ください。
結論:自治体ごとに制度があり、条件も上限額も違います
調べた自治体の公式案内では、市が(または市から委託を受けた団体が)保険契約者となり、認知症のある高齢者などを被保険者として個人賠償責任保険に加入する仕組みが確認できました。調べた範囲では、保険料は自治体が負担しており、本人や家族の自己負担がないと案内されています。
一方で、対象になる人の条件、補償の上限額、申込みの方法は自治体によって違います。上限額は1億円から3億円までの幅がありました。事前に見守り・SOSネットワークなどへの登録を求める自治体もあれば、そうした登録を条件として書いていない自治体もあります。
なお、すべての自治体にこの制度があるとは限りません。全国でどれだけの自治体が実施しているかは、このページでは確認できていません。お住まいの市区町村にあるかどうかは、高齢福祉の担当課や地域包括支援センターに問い合わせるのが確実です。
自治体の個人賠償責任保険とは、どんな仕組みですか?
自治体の案内には、おおむね次のような説明があります。認知症の人が日常生活での偶然の事故により、他人にけがをさせたり、他人の物を壊したりして、本人や家族が法律上の損害賠償責任を負った場合に、その賠償金を保険で補償する、というものです。
契約の形も案内に書かれています。大分市や泉佐野市の資料では「市が保険契約者となり保険料を全額負担する」とあり、福山市の資料では「市から委託を受けた社会福祉協議会が保険契約者となる」とあります。つまり、利用する人が保険会社と直接契約する形ではなく、自治体側が契約している保険に、条件を満たした人が加入する形です。
また、実際の補償内容や補償の範囲、免責事由(保険金が支払われない場合)は、保険契約の約款によるとする自治体があります(西宮市の案内)。案内ページの説明だけで、補償されるかどうかは決まりません。
自治体の保険は、誰が入れますか?
対象の条件は自治体ごとに違います。公式案内に書かれていた主な条件は、次の3種類でした。
- 見守り・SOSネットワークなどへの事前登録:伊勢崎市、福山市、大分市では、事前登録をしていることが条件に含まれています。福山市と大分市の案内には「保険のみの加入はできません」とあります。
- 認知症の診断などの確認:名古屋市は「認知症の診断を受けている人」、西宮市は認知症無償診断の結果、主治医意見書、医師の診断書のいずれかで確認できる人、とされています。豊中市は、確定診断のほか、過去にひとり歩きで行方不明になったことがある人、介護保険の認定調査票や主治医意見書で認知症高齢者の日常生活自立度がⅡa以上と確認できる人なども挙げています。
- 年齢と住まい:豊中市は65歳以上または若年性認知症の人、伊勢崎市の案内では見守りサービスの対象が40歳以上とされています。西宮市は在宅生活者で外出の機会がある人、大分市は市内の自宅に居住している人が対象です。福山市は要介護認定または要支援認定を受けている人としています。
対象外とされている例もあります。西宮市の案内では、軽度認知障害(MCI)の人、介護保険施設や社会福祉施設に入所している人、退院の目途が立っていない入院中の人などが「加入の対象外となる主な方」として挙げられています。豊中市は、ひとり歩きで行方不明になるおそれのない人は対象外としています。
自治体の例を比べると、どう違いますか?
地域の違う6つの自治体について、公式ページまたは公式のチラシから、書かれていた内容を表にしました。更新日は、各公式ページに表示されていた日付です。表に書いていない項目は、その資料では確認できなかったものです。
| 自治体 | 対象 | 保険の上限額 | 自己負担 | 事前登録の条件 | 公式ページの更新日 |
|---|---|---|---|---|---|
| 群馬県伊勢崎市 | 見守りサービス(GPS機器貸与)または見守り事前登録制度に登録している人 | 3億円 | 無料(保険料は市が全額負担) | 登録が条件 | 2025年4月1日 |
| 愛知県名古屋市 | 名古屋市民で、認知症の診断を受けている人 | 個人賠償責任保険は2億円(ほかに給付金・見舞金の定めあり) | ページでは確認できず | 登録の記載は確認できず(事前申請は必要) | 2025年10月17日 |
| 大阪府豊中市 | 市内居住で、ひとり歩きで行方不明になるおそれのある65歳以上または若年性認知症の人のうち、確定診断などの条件に当てはまる人 | 3億円 | 無料(保険料は市が全額負担) | 登録の記載は確認できず | 2026年7月6日 |
| 兵庫県西宮市 | 市内在住・住民登録があり、認知症が確認でき、在宅で外出の機会がある人 | 1億円 | 無料(保険料は市が負担) | 登録の記載は確認できず | 2026年7月19日 |
| 広島県福山市 | ひとり歩きSOSネットワークに事前登録し、要介護・要支援認定を受け、加入を希望する人 | 3億円(市の委託先の社会福祉協議会が契約者) | 無料 | 登録が条件 | 2023年12月1日(掲載日) |
| 大分県大分市 | 大分あんしんみまもりネットワークに事前登録している人 | 1事故あたり1億円 | なし(市が保険料を全額負担) | 登録が条件(登録で自動加入) | 2026年10月1日 |
福山市の上限額は、市のページ本文ではなく、同市が公開している案内チラシに書かれていたものです。このチラシには日付がなく、福山市のページ本文の掲載日と同じ時点の内容かどうかは確認できていません。名古屋市の上限額と、豊中市・西宮市の登録条件の有無は、それぞれ公式ページの本文に書かれていた内容にもとづいています。
補償の上限額は、いくらですか?
上の表のとおり、調べた自治体では次のような上限額でした。
- 3億円:伊勢崎市、豊中市、福山市
- 2億円:名古屋市(個人賠償責任保険)
- 1億円:西宮市、大分市(大分市は1事故あたり)
名古屋市の事業には、個人賠償責任保険のほかに、給付金と見舞金があります。市のページには、個人賠償責任保険は、事故を起こした本人または監督義務者(家族等)に賠償責任が認められた場合に支払われるものと説明されています。給付金は、賠償責任が認められなかった場合で一定の要件を満たしたときに支払われるもので、上限は3000万円(事故の相手方が市民で、死亡または後遺障害となった場合)、見舞金は15万円(事故の相手方が市民以外で死亡した場合)とされています。
ここに書いた金額は、各自治体の案内にある上限額です。実際に支払われる額は、事故の内容や、約款の定めによって変わります。
どんな事故が対象になり、どんな場合は対象にならないのですか?
自治体の案内に、対象になる例として共通して書かれていたのは、次のようなものです。
- 線路内に立ち入って電車を止めてしまい、鉄道会社から振替輸送費用などの損害賠償を請求された(伊勢崎市、豊中市、福山市、大分市)。
- 自転車に乗っていて歩行者にぶつかり、けがを負わせてしまった(伊勢崎市、豊中市、福山市、大分市)。
- 店の商品を誤って壊してしまった、日常生活の事故で他人の物を壊してしまった。
西宮市の案内には、外出中の事故、商店や施設内での器物損壊、他者との接触によるけがなどが例として挙がっています。
対象にならない場合については、自治体ごとに書き方が違います。大分市の案内には「事故の状況等により、対象とならない場合があります」とあります。西宮市の案内には、加入中であっても、入院中に病院・診療所内で発生した事故は補償の対象外になる、と書かれています。名古屋市の案内には、保険金や給付金などは、事故の内容や調査結果などに応じて支払われる、という説明があります。
どの事故が対象になるかを最終的に決めるのは、保険の約款と、保険会社の調査です。このページの例だけで、対象かどうかを判断することはできません。
自己負担や費用は、かかりますか?
調べた自治体のうち、伊勢崎市、豊中市、福山市、大分市は、公式案内に無料(自己負担なし)と書かれていました。西宮市も、保険料は市が負担すると案内しています。名古屋市は、公式ページの本文では自己負担の有無を確認できませんでした。
ただし、保険料以外の費用が別にかかることがあります。たとえば西宮市の案内では、加入の確認に医師の診断書を使う場合は、文書料がかかるとされています。また、診断書が必要な自治体では、診断書の取得費用がかかる可能性があります。申込みの前に、必要な書類と費用を窓口で確かめておくと安心です。
申込みは、どこにすればよいですか?
申込みの窓口は、自治体の公式案内によって違います。確認できたものは次のとおりです。
- 伊勢崎市:地域包括支援センター(市役所本館7番窓口)。高齢者相談センターや支所の市民サービス課でも手続きができると、チラシに書かれています。
- 豊中市:電子申込システム、郵送、窓口で申込みができます。担当は長寿安心課です。
- 名古屋市:名古屋市認知症相談支援センターへ郵送で申請します。令和7年7月1日からオンライン申請も始まったと、ページに書かれています。
- 西宮市:地域共生推進課へ申請書を提出します。認知症無償診断を受けた人は、希望すると市から申請書が送られる場合があります。
- 福山市:福山市社会福祉協議会の福祉のまちづくり課で、SOSネットワークの事前登録書に保険加入のチェックをして提出します。
- 大分市:大分あんしんみまもりネットワークの事務局に登録すると、自動的に保険に加入します。市の担当は長寿福祉課です。
お住まいの自治体の窓口が分からない場合は、市区町村の高齢福祉の担当課や、地域包括支援センターに「認知症の人の個人賠償責任保険の制度はありますか」と問い合わせる方法があります。地域包括支援センターなどの相談先は、困ったときの相談先にもまとめています。
自分で加入する保険(個人賠償責任保険や特約)について、公的資料で言えることは?
日本損害保険協会の「損害保険Q&A」には、個人賠償責任保険について次のような説明があります。
- 個人またはその家族が、日常生活で誤って他人にけがをさせたり、他人の物を壊したりして、損害賠償金や弁護士費用などを負担した場合の損害を補償する保険である。
- 単独で契約することもできるが、火災保険、傷害保険、自動車保険などの特約として契約する場合が多い。
- 被保険者は「生計を共にする同居の親族」などとされ、世帯主が契約すれば、子どもが起こした事故も補償されることがある。
- 被保険者が責任能力のない未成年者や認知症の高齢者などである場合は、その親権者や法定の監督義務者等を被保険者とする保険商品もある。
同じ資料には、保険金が支払われない主な場合として、故意による損害賠償責任、同居の親族に対する損害賠償責任、被保険者の心神喪失に起因する損害賠償責任などが挙げられています。また、示談交渉サービスを付帯しているかどうかは保険会社によって異なるため確認が必要であること、事故のときは保険会社に断りなく被害者と約束を取り交わすと保険金が支払われない場合があることも、協会のページに書かれています。
ここから言えるのは、保険の種類や特約によって、認知症の人の事故が補償されるかどうかが変わりうる、というところまでです。すでに入っている保険に特約があるか、補償の対象になる範囲はどこまでかは、契約している保険会社や代理店に、契約書類を見ながら確認するのが確実です。このページは、保険への加入を勧めるものではありません。
認知症の人が起こした事故は、誰が責任を負うのですか?
民法第714条には、責任無能力者(行為の責任を弁識する能力のない人)が第三者に損害を加えた場合、その人を監督する法定の義務を負う者が賠償責任を負う、という規定があります。ただし書きで、監督義務者がその義務を怠らなかったときなどは責任を負わない、とも書かれています。第2項には、監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も同じ責任を負う、という規定があります。
この規定が、認知症の人の家族に当てはまるかどうかが争われた事件に、最高裁判所の平成28年3月1日の判決があります(平成26年(受)第1434号、いわゆるJR東海事件)。裁判所のサイトに掲載されている「裁判要旨」は、おおむね次のとおりです。
- 精神障害者と同居する配偶者であるからといって、その人が民法714条1項の「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできない。
- 法定の監督義務者に当たらない人でも、責任無能力者との身分関係や日常生活での接触状況に照らして、その人が監督を現に行い、その態様が単なる事実上の監督を超えているなど、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情がある場合には、法定の監督義務者に準ずべき者として、714条1項が類推適用される。
- この事件で問われた妻と長男については、判示された事情のもとでは、いずれも法定の監督義務者に準ずべき者には当たらない。
この要旨から読み取れるのは、家族だからという理由だけで責任が決まるわけではなく、個々の事情に照らして判断される、という点です。一方で、別の事情のある家族について責任がどうなるかは、この判決の要旨からは分かりません。ご家族の場合に責任があるかどうかは、弁護士などの専門家に個別にご相談ください。
この判決のあと、厚生労働省などの関係省庁は、認知症の人による事故等の実態把握のためのワーキンググループを設けました。平成28年12月の厚生労働省資料には、鉄道事故について、平成26年度中の認知症の人が関係する事故は全29件で、損害額は最大約120万円だったこと、最高裁判決のような高額の事案が頻繁かつ多発しているという事実は確認されなかったことが書かれています。この資料は平成28年のものなので、現在の状況を示すものではありません。同じ資料には、個人の賠償責任を補償する民間の保険について、市町村などと連携しつつ必要に応じて紹介・普及を行う、という方針も書かれています。
よくある質問
自治体の保険に入れば、どんな事故でも補償されますか?
そうとは限りません。補償の内容と範囲は、保険の約款で決まります。大分市や西宮市の案内にも、対象とならない場合があること、約款によることが書かれています。
事前登録をしていないと、入れませんか?
自治体によって違います。伊勢崎市、福山市、大分市は事前登録を条件にしています。一方、名古屋市、豊中市、西宮市は、公式ページの本文では事前登録を条件として書いていませんでした。ただし、案内の書き方が変わることもありますので、窓口で確かめてください。
お金に余裕がなくても入れますか?
調べた自治体では、保険料は自治体の負担で、所得などの条件は案内に書かれていませんでした。ただし、診断書の費用など、別の費用がかかることがあります。
引っ越したり、施設に入ったりしたらどうなりますか?
豊中市は、転出するときや行方不明になるおそれがなくなったとき、西宮市は転出や施設入所などで要件に当てはまらなくなったときに、届出が必要としています。伊勢崎市も、転出・入院・施設入所などで保険加入の必要がなくなったときは解約届を出すよう案内しています。
自分の保険にも入っているのですが、両方必要ですか?
このページでは、どちらが必要かをお答えできません。自治体の保険と自分の保険の内容を比べるには、自治体の窓口と、契約している保険会社や代理店に確かめる方法があります。福山市の案内には、自治体の保険の詳細は保険会社または代理店に問い合わせる、とあります。
親がまだ診断を受けていません。どうすればよいですか?
診断を受けていることが条件に含まれる自治体があるため、まず地域包括支援センターなどに相談する方法があります。認知症になったときのお金や家のことは、親が認知症になると、お金と家はどうなるかもご覧ください。
このページで分からないこと
次の点は、調べた公的資料では確認できていません。分からないものを断定しないために、あえて書いています。
- 全国のうち、この制度のある自治体がいくつあるか、お住まいの自治体にあるかどうか。
- ここで取り上げた6つの自治体以外の、条件や上限額。
- 名古屋市の自己負担の有無(公式ページの本文では確認できませんでした)。
- 福山市の案内チラシの作成時期。
- 事故が起きたとき、個別の場合に、保険金が支払われるか、家族に賠償責任が生じるか。
- お住まいの地域の最新の運用。制度は年度の途中で変わることがあります。
これらは、お住まいの市区町村の高齢福祉の担当課、地域包括支援センター、契約している保険会社、弁護士などに個別に確認してください。後見の制度については、成年後見制度の解説をご覧ください。
出典(確認日:2026年11月3日)
- 伊勢崎市 認知症高齢者等個人賠償責任保険事業について(更新日 2025年4月1日)
- 伊勢崎市 認知症高齢者等個人賠償責任保険事業 チラシ
- 名古屋市 なごや認知症の人おでかけあんしん保険事業(更新日 2025年10月17日)
- 豊中市 認知症個人賠償責任保険(更新日 2026年7月6日)
- 西宮市 認知症高齢者等個人賠償責任保険(更新日 2026年7月19日)
- 福山市 認知症高齢者等個人賠償責任保険事業(掲載日 2023年12月1日)
- 福山市 認知症高齢者等個人賠償責任保険事業のお知らせ(チラシ)
- 大分市 認知症高齢者等個人賠償責任保険事業(更新日 2026年10月1日)
- 日本損害保険協会 損害保険Q&A 問92 個人賠償責任保険
- 日本損害保険協会 個人賠償責任保険
- 裁判所 裁判例結果詳細(最高裁判所第三小法廷 平成28年3月1日判決 平成26年(受)第1434号)
- 民法(e-Gov法令検索)第714条
- 厚生労働省 認知症高齢者等による事故等の実態把握等に関する検討等について(平成28年12月13日資料)